【フィジカルアセスメント】体温測定の目的とリハビリへの活かし方
体温はバイタルサインのひとつです。
体温は患者さんのフィジカルアセスメントをする上で重要な情報になります。
リハビリの場面でも体温の情報は患者さんの状態を適切に把握し効果的なリハビリメニューを考える上で大切です。
この記事では体温測定の目的とリハビリへの活かし方について考えていきます。
核心温と外殻温
体温は全身で一定に保たれているわけではありません。体温は核心温と外殻温に分けられます。
核心温
核心温とは身体内部の臓器がある部分の体温のことを指します。
体内の深部には重要な臓器があります。体内の臓器には最適な酵素活性の温度があります。体内の臓器が働くためには適切な温度を保つ必要があります。
そのため、核心温を常に一定に保つようにホメオスタシスが働いています。
核心温を最適に保つためにホメオスタシスが働く
外殻温
外殻温とは身体の外側の体温のことを指します。
外殻温は周囲の環境の影響を受けます。周囲の環境温によって外殻温に温度変化が見られます。
外殻温は周囲の環境温によって変化する
外殻温と核心温との差が重要
外殻温が低い場合、熱産生が低下している可能性
熱を産生する臓器
体温は熱を産生する臓器によって生じます。体温の変動には熱を産生する臓器の働きが関与しています。
1日の熱産生量(kcal)
骨格筋:1,570(59%)
呼吸筋:240(9%)
肝臓 :600(22%)
心臓 :110(4%)
腎臓 :120(4%)
その他:60(2%)
出典:基礎運動学(医歯薬出版株式会社)
この表から熱産生を行う臓器としては骨格筋と肝臓が重要であることがわかります。
骨格筋
骨格筋は収縮を行うためにATPを大量に消費します。消費したATPのうち筋収縮として仕事を行うエネルギーは約25%です。残りの75%以上が熱になります。
骨格筋が生み出す熱は運動強度が高いほど大きくなります。そのため、運動時には安静時の10~12倍の熱産生が起こります。運動をすると体が温まって汗をかくのは骨格筋による大量の熱産生によって生じています。
体温が低下したときに生じるふるえ(シバリング)は骨格筋の熱産生を利用した体温調節の反応です。
骨格筋の主動筋と拮抗筋を持続的に収縮させることでATPを消費した熱産生と摩擦熱を発生させます。ふるえでは骨格筋の仕事を伴わないのため熱産生の効率は限りなく100%に近くなります。
骨格筋が収縮することで大量の熱産生がおこる
体温維持のためのふるえではATP(エネルギー)が消耗される
肝臓
肝臓では物質代謝の過程で熱産生がおこります。肝臓には腸管由来の門脈が流入しさまざまな栄養素の分解・合成・貯蔵を行っています。この栄養素の分解・合成・貯蔵などの化学反応の過程でエネルギー(熱)が作られます。
体温低下時には代謝率を変化させて熱産生を促します。副腎髄質から分泌されるアドレナリン・ノルアドレナリンの分泌量を変化させることで、肝臓での代謝率が変化します。アドレナリン・ノルアドレナリンの分泌をつかさどる副腎髄質の機能が亢進してしまう疾患を褐色細胞腫といいます。褐色細胞腫では代謝が亢進し熱産生の病的な増加がみられます。
熱放散の方法
熱放散の方法には放射、伝導、対流、蒸発の4種類があります。
放射
放射とは体内の熱を赤外線として体表面から放出することです。皮膚を通して血液から熱が放出されます。放射は環境温の影響を受ける受動的熱放散に含まれます。
放射は皮膚温が環境温より高いときにのみ熱の放散がおこります。大気温が24℃のときには熱量の67%が放射によって放出されます。それに対して、大気温が35℃のときには熱量の4%しか放射はおこらないと言われています。
放射による熱放散の調節として末梢血管の調節があります。放射を増やしたいときには末梢血管の拡張がおこります。末梢血管の血流量が増えるため、皮膚の発赤や四肢末梢部の温感が生じます。反対に放射を減らしたいときには末梢血管の収縮がおこります。末梢血管の血流量が減るため、皮膚蒼白や四肢末梢部の冷感が生じます。
放射は熱放散の大部分を占める(環境温が低いとき)
四肢末梢の温感・冷感をアセスメントすると体内の熱量調節が推測できる
伝導
伝導とは皮膚が直接触れているものに熱が伝わることを指します。触れている物質の種類によって熱伝導率が変化します。人体の場合には、水中にいるときなどを除くと多くの場合無視できる熱放散量です。
対流
対流とは伝導により温められた空気が上昇し、周囲の冷たい空気が流入することで熱伝導が促進されます。
対流は環境温度の影響を受けます。大気温が24℃のときには熱量の10%が対流として熱放散されます。それに対して、大気温が35℃のときには熱量の6%が対流として熱放散されます。
蒸発
蒸発とは発汗と皮膚・呼気からの水分の蒸泄により熱放散することです。
発汗による水の蒸発によって、約580kcal/gの熱量が放出されます。汗が皮膚上に液体として出現する前に蒸発する場合を不感蒸散といいます。
汗は汗腺から分泌されます。汗腺にはアポクリン腺とエクリン腺が知られています。アポクリン腺は腋窩や外陰部、肛門周囲に分布しています。エクリン腺は全身の皮膚に分布しています。運動による発汗の大部分はエクリン腺によって分泌されます。汗腺は全身の中でも特に、腋窩、手掌部、足底部、前額部に多く存在します。
蒸発は外気温の影響を受けます。大気温が24℃のときには熱放散の23%が蒸発によって生じます。それに対して、大気温が35℃のときには熱放散の90%以上が蒸発によって起こります。
蒸発による熱放散の調節として発汗量の調節が行われます。体温が高く熱放散を促すときには発汗量が増大します。反対に体温が低く熱放散を抑制するときには発汗量が減少します。
体温調節のメカニズム
体温は皮膚、腹腔、脳幹、脊髄などにある体温の変化を検出する受容器によって調節されます。体温をセットポイントと言われる一定の温度に保つようにホメオスタシスが働きます。
体温調節中枢
体温調節は視床下部にある温熱中枢と寒冷中枢によって制御されています。
温熱中枢は前視床下部に存在します。前視床下部には熱を感知するニューロンがあります。前視床下部が熱刺激によって興奮すると熱放散が生じます。
寒冷中枢は後視床下部に存在します。後視床下部は末梢の冷覚受容器からの刺激を受けます。刺激を受けた後視床下部は熱産生を促します。
体温上昇時の反応
体温上昇時には熱産生を抑制する反応と熱放散を促進する反応が出現します。
熱産生を抑制するため肝臓での代謝率が低下します。さらに、筋肉のふるえ(シバリング)が抑制されます。
一方で熱放散を促進するため皮膚血流量が上昇します。さらに、発汗量が増大します。
発熱時には皮膚の色調、皮膚温、発汗量のアセスメントが重要
体温低下時の反応
体温低下時には熱産生を促進する反応と熱放散を抑制する反応が出現します。
熱産生を促進するため肝臓での代謝率が上昇します。さらに、筋肉のふるえ(シバリング)が促進されます。
一方で熱放散を抑制するため皮膚血流量が減少します。さらに、発汗量が減少します。
体温低下時には皮膚蒼白、皮膚温低下、シバリングのアセスメントが重要
生理的変動
体温は生理的要因で変動がおこります。
体温上昇要因
時間帯(活動時)
時間帯は15時から20時ごろに体温が上昇します。人間には24時間単位の体温のリズムである概日リズムがあります。活動時には体温が上昇します。
運動時
運動時には骨格筋の収縮により安静時の10~12倍の熱産生がおこります。
食事
食物が腸管で吸収され肝臓での代謝が活発になります。肝臓での代謝に伴い熱産生がおこり体温が上昇します。
精神的興奮時
精神的興奮によってアドレナリンが分泌されます。アドレナリンの作用により末梢血管が収縮し熱放散が減少します。また、骨格筋への血流が増加します。精神的興奮状態では筋緊張も亢進しますので骨格筋の収縮もおこり熱産生が促されます。
女性
女性ホルモンの影響で体温の上昇がおこります。
小児
皮膚が未発達であり体温調節機能が低いため体温上昇がおこりやすい。
体温低下要因
低栄養
低栄養状態では肝臓での栄養素の代謝が減少します。肝臓での化学反応が減ることで熱産生が減少し体温低下を生じます。
高齢者
基礎代謝量の減少、皮膚血流の調節機能低下により低体温となることが多くみられます。
体温の生理的変動を理解した上で測定値の考察をすることが大切
体温異常の要因
体温の異常には高体温と低体温があります。高体温は発熱とうつ熱という状態に分けられます。
発熱
発熱の要因には発熱を引き起こすサイトカインと体温調節中枢の視床下部の物理的障害があります。
発熱サイトカイン
発熱を引き起こすサイトカインは体温調節中枢である視床下部に作用します。サイトカインが視床下部に作用することで体温の基準値(セットポイント)が上昇します。発熱を起こすサイトカインは感染症や膠原病、悪性腫瘍などが原因となって上昇します。
視床下部の物理的障害
体温調節中枢の視床下部が脳実質の損傷により障害されることで体温調節機能が低下します。体温調節機能が低下することで発熱がおこります。視床下部が障害される原因には脳出血や脳腫瘍による圧迫があります。
うつ熱
うつ熱は高温環境や運動によって熱産生が高まり、熱が蓄積されることで生じます。代表的な疾患に熱中症があります。発熱が続くことでうつ熱の状態になることもあります。
低体温
環境温度の低下、アルコール過剰摂取などによって低体温が生じます。また、低栄養による肝臓での代謝量の低下、甲状腺ホルモンの減少により熱産生が低下することでも低体温を生じます。
体温異常を引き起こす要因の推測が大切
普段の体温との比較をして変化を見逃さないことがポイント
結論:体温測定で重要な情報を得ることができる
体温測定をすることで、体内の熱産生の状態や感染症の有無、体温調節機能の異常の有無などをアセスメントすることができます。
特に訪問リハビリの領域では異常を早期に発見するためにも重要な情報になります。体温異常がおこるメカニズムを理解した上で体温測定の結果をもとに考察することがリハビリ職に大切な能力になります。